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齋藤優介 齋藤優介
2025.09.30

株式会社 新武

金型に「自分たちの物語」を込めて

代表取締役 齋藤智則 氏 インタビュー

「金型は、ただの部品じゃない。平たい金属に命を吹き込む“装置”なんです」
そう語るのは、新潟県燕市の株式会社新武 代表取締役社長 齋藤智則氏。日用品から産業機械まで、暮らしを支える多種多様な製品の量産を支える金型は、いわば産業の“黒子”だ。だが今、その裏方の現場――新武では、「自分たちのものづくりの意味」に改めて向き合う動きが、静かに芽生えはじめている。

受託製造に感じはじめた“限界”
創業から半世紀、新武は建築金物から自動車部品まで、幅広い分野の金型製作を請け負ってきた。その多くは、他社の図面に基づくBtoB型の受託製造。図面どおりに精密に、ミスなく仕上げる―それが仕事の本質だった。「私たちの仕事は、図面があって初めて成立する。他人の設計、他人の仕様に沿ってつくることが“当たり前”だった」と齋藤氏は語る。だがその構造は、景気変動や発注元の動向に大きく左右される。自社の意志で価値を創り出す余地が見えにくいという“限界”も、少しずつ感じるようになっていた。

自分たちの“物語”を生むものづくりへ
転機となったのは、副業人材との協働で取り組んだ商品開発、そしてマシニングセンタを使って、点描画のような絵を金属上に描く「マシンアート」への挑戦だった。他人のためではなく、「自分たちの作品」をつくる。その体験は、社内に深い問いを投げかけた。
「自分たちの商品って、何だろう?」
その問いはやがて、「自分たちはどういう会社なのか」「何が強みなのか」と、組織全体を見つめ直すきっかけにもなった。長年勤めてきた社員たちも、実は心の中に「自分たちで生み出したもので世の中に問いかけたい」という想いを抱えていた。「そうした社員の声を、しっかりとくみ取っていきたい」と、齋藤氏は語る。

技術の現場で、思考が変わった
齋藤氏自身にも、その変化は起きていた。かつてはメーカーの営業職として活躍し、家業に入った当初も「しゃべりと段取りでなんとかなる」と思っていたという。しかし、金型製作の現場に立ち、図面と向き合い、設計と試作を重ねるうちに、その考え方は大きく変わった。「金型は精度がすべて。中途半端な気持ちでは通用しない。仕事に真剣に向き合う中で、自分の考え方そのものが変わっていったのです。仕事を通して自分が変わる。その変化を、自分で面白いと感じられるようになったのが、いちばんの収穫かもしれません」

家庭にも波及する「感覚の変化」
この変化は、社内にとどまらなかった。副業人材との協働をきっかけに、家庭内の会話にも変化が表れたという。「家で話していても、アイデアがどんどん出てくるんです。日常のちょっとした気づきが、製品開発のヒントになる。それって、金型の世界では今までなかった発想なんです」齋藤氏の中に芽生えた「考える感覚」は、家庭にも自然と共有されはじめていた。

忙しすぎないことが、むしろ利益になる
現在の新武では、自社のリソースと「限界値」を正確に見極め、一件一件の案件に丁寧に向き合う姿勢を重視している。金型製作は、設計から製造までに時間と手間がかかる。無理に案件を詰め込めば、品質も納期も崩れ、結果的に信頼を損なってしまう。そして何より、「忙しい」からといって、必ずしも利益につながるわけではない。「最近ようやくわかってきたんです。“忙しくしていない金型屋のほうが、実は儲かる”って。だからこそ、リソースを絞って、一つひとつの案件としっかり向き合うようにしています」

最後に残るのは「人」の感覚
そしてもうひとつ、齋藤氏が強く語るのが「人」の存在だ。副業人材、社員との対話、家庭での会話――あらゆる人との関わりが、ものづくりの変化を導いてきた。「うちの社員には、“面白いか、面白くないか”っていう感覚があるんです。それって、実はすごく大事だと思うんですよね」
産業の黒子的存在だった金型屋として創業した新武だが、創業当初から「人」に焦点を当てたものづくりを貫いてきた。そしていま、内なる問いを抱きながら、「自分たちの物語」を込めた新たな製造のかたちへと、静かに舵を切りはじめている。その先にあるのは、単なる部品づくりではなく、自己表現としての製造業だ。そこには、金型産業で培った課題を解決する技術と感性を融合させた「ものづくりの進化」がある。

私は、以前に会長へのインタビューを行った際、新武が創業当初から「人」に焦点を当てたものづくりを貫いてきたことを知った。その精神は脈々と受け継がれ、今もなお社内に息づいている。
人の感覚と感性を中心に据えた新たなものづくりの歩みは、いま、あらためて自社の社員へと向けられているように思う。「社員がこの新武で働いて良かった」と、心から思えるような会社を目指して――その姿勢は確かに、日々の対話や現場の工夫の中に表れている。
そして、「面白さ」という感覚を仕事の中に見出すこと。それは、閉塞感に包まれた日本の産業界に、新たな風穴を開ける――そんな希望を、私は強く感じている。

(聞き手:株式会社つばめいと齋藤優介、渡辺丈一郎)