東商技研工業 株式会社
女性が輝く現場の挑戦
代表取締役 今野祐樹 氏 インタビュー
新潟県燕市に本社を置く東商技研工業株式会社は、金属表面処理を主力とするものづくり企業である。バレル研磨を主体に据え、大量ロットの製品を高精度で磨き上げてきた。業務の多くは力仕事であり、長らく「男の職場」として認知されてきた。しかし近年、現場に女性社員が増えたことで社内の雰囲気は一新され、展示会活動や新規顧客開拓にも積極的に取り組んでいる。
同社の現状と挑戦について代表取締役 今野祐樹氏に聞いた。
女性が現場を変える
かつて同社の作業現場には力仕事が多く「男の職場」と見られてきたが、近年は状況が大きく変わっている。
現在、現場従業員10人のうち約4割が女性を占めるのだ。地域の製造業としては極めて珍しい構成であり、その存在が職場全体の雰囲気を刷新している。
「現場で働きたいと志望してくれる女性がいることに、最初は驚きました。しかし、実際に任せてみると、鏡面加工やバレル研磨といった繊細な工程では女性の感覚が大きな強みになっている。わずかなキズを見抜く力や、根気強さは特に女性社員が得意としています」
女性の参入は、単に人員が増えただけでなく、社内の空気そのものを変えていった。作業環境は明るさを増し、現場全体が和やかな雰囲気に包まれている。
「女性が入ってくれたことで、会社が新しくなったと感じます。職場が明るくなるというのは本当に大きなことですね」。
現場体験から始まる育成
同社では、新入社員がまず現場作業を経験する。設計や営業の立場と、実際に作業を担う現場の立場とでは、ものづくりに対する視点が大きく異なるからだ。
「試作をお客様に提案する営業や設計担当と、実際に現場で加工を行う担当とでは感覚が違います。だからこそ、まずは現場を経験してほしい。そうすれば、
お客様の依頼に応える難しさや、ものづくりの責任感を肌で理解できるのです」
試作品は初回費用をいただかず自己負担で取り組むこともある。0.1mm単位の部品加工から始まり、0.05mm、さらに30ミクロンという精度を求められるケースもある。
「変形させずに仕上げられるかどうか、その勝負どころが面白い。試行錯誤をしながらやるのが楽しいと社員が口を揃えて言う。それがうちの文化そのものだと思います」
展示会が広げる可能性
同社は展示会活動にも積極的に取り組んでいる。直近では福井市での展示会(10月22・23日)や、埼玉での産業展示会への出展を予定している。
「展示会は販路を広げる場であると同時に、人との出会いが何よりの財産になります。10年ほど前、初めてモノづくりメッセに出展したときに多くの方と出会いました。そのご縁が、今の活動につながっているのです」
展示会の場では、来場者から「バフ研磨に代わる鏡面加工はできないか」と相談されることも少なくない。従来、バフの磨きには人の手に頼らざるを得なかったが、東商技研工業はバレル研磨を駆使して細部まで仕上げる取り組みを進めている。結果として、従来は手磨きが不可欠とされた工程も、バレル研磨で補えるケースが増えてきた。
「展示会でも『ここまで細かい鏡面仕上げができるのか』と驚かれることがあります。付加価値の高いものを追求する姿勢が、私たちの強みになっています」
昨年は別の展示会に参加し、活動の幅を広げてきた。県外からの来場者も増え、会社の認知度は着実に高まっている。展示会を通じて得たつながりと評価が、次なる挑戦の原動力になっているのだ。
信頼を支える人材と「モノを作ろう」という想い
東商技研工業の営業基盤は堅実である。売上の9割は既存顧客によるもので、安定した関係が続いている。さらに新規顧客が1割を占め、そのうちの約2分の1は県外からの依頼だ。地域にとどまらず、全国的に信頼を獲得していることがわかる。
「小さな案件でも丁寧に対応する姿勢を貫いてきました。その積み重ねが信頼を呼び、次の依頼につながっています。
インタビューの最後に、今野さんは会社の根幹にある想いをこう語った。
「社員の声を聞くと、『モノを作らせてくれ』『モノを作ろう』という言葉が自然と出てきます。受け身ではなく、自分たちから動き、提案し、挑戦する。その文化があるからこそ、東商技研工業はここまで来られたのだと思います」
女性の活躍、現場での育成、試作への挑戦、展示会での出会い――。東商技研工業は、バレル研磨を中心としながらも「どんな磨きにも対応できる会社」へと進化を遂げてきた。小さな案件にも真摯に向き合い、挑戦を続ける姿勢の裏には、今野祐樹社長の「モノを作らせてほしい」という熱意がある。
その姿勢は、現場の常識や産地の固定観念を覆す力を持ち、地場のものづくりに新しい可能性をもたらしている。
今野社長の言葉に込められた「モノを作ろう」という想いは、東商技研工業の未来だけでなく、燕三条の産業全体の未来を照らす合言葉のように聞こえてくる。
(聞き手:株式会社つばめいと齋藤優介、渡辺丈一郎)
