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齋藤優介 齋藤優介
2025.09.30

株式会社 セキヤ

「できない形はない」 ニッケルロウ付けの技術で挑む、セキヤの現場力

専務取締役 酒井直也 氏インタビュー

新潟県燕市にある株式会社セキヤは、他には真似できないニッチな技術で勝負する金属加工のプロフェッショナル企業だ。
とりわけ注目すべきは、真空炉を用いたニッケルロウ付けや、一体成形によるステンレスのプレス加工である。これらの技術は、同業者でさえ「どうやって作ったのか分からない」と驚くほどのレベルに達している。

技術は「伝える」時代へ
いま一番伝えたいのは、“技術”なんです。」
そう語るのは、株式会社セキヤ 専務取締役の酒井直也氏。静かな佇まいとは裏腹に、その言葉には確かな情熱と自負が込められている。
“技術のセキヤ”と称される同社において、ひときわ象徴的な存在となっているのが「真空炉内でのニッケルロウ付け」だ。高温かつ真空という過酷な環境でロウ材を溶かし、酸化を限界まで抑えながら金属同士を接合するこの技術は、国内でも対応できる企業が限られている。接合部は精密で強固、かつ美しい仕上がりとなり、機能性と意匠性を高い次元で両立しているのが特徴だ。
この技術は、現会長が先代時代に家庭用製品の大量生産で培ったノウハウに端を発し、注ぎ口など繊細な接合部への応用を通じて育まれてきた。今では酒井さんをはじめとする現体制のもとで、産業用部品や精密機器へと応用の幅を広げ、現代のニーズに合わせてさらに進化を遂げている。
「かつて、累計100万個を超えるやかんを製造していた時代がありました。注ぎ口の接合にこのニッケルロウ付けを使っていたんです。加熱による酸化を防ぎつつ、美しく接合できるため、仕上がりの見た目が非常に良い。それでいて強度も申し分ない。この家庭用品の量産を通じて蓄積されたノウハウが、今では産業用機器や精密部品の接合技術として応用されるようになりました。」
この技術はさらに進化を遂げ、かつてはダイキャストでしか成形できなかった複雑な形状にも対応可能となった。複数のプレス加工品を組み合わせてロウ付けすることで、金型を用いずに同等以上の製品を実現できるようになったのである。
これにより、高額な金型代が不要、あるいは最小限で済むようになり、顧客の初期投資を大幅に抑えることに成功した。従来の製造現場におけるコスト構造を根本から覆す、まさにゲームチェンジャーと呼ぶべき技術革新である。
そして、従来は「できない」とされてきた形状すらも、次々と形にしていくその技術力には、限界という言葉すら通用しない。もはや「不可能な形など存在しない」と言っても、決して誇張ではないのかもしれない。

新たな分野を目指す
酒井氏が次に見据えているのは、産業機器、医療機器、そして食品加工設備といった高精度と耐久性が求められる分野だ。
現在は、独自に真空容器の製作にも挑戦しており、とくに「四角い容器の成形」という非常に難易度の高いテーマに取り組んでいる。
「製品単価を考えると、数が出なければ金型代の回収は難しい面もあります。でも、付加価値の高い製品にしっかりと技術を活かしていけば、そこは乗り越えられると思っています。」

「作り手」から「育てる人」へ
技術は、ただ受け継ぐものではなく、育て、広げていくもの——。
いま酒井氏が力を注いでいるのは、社員の育成と「多能工化」という組織づくりだ。
「高度な仕事ほど、“誰かにしかできない”状態にしてはいけない。誰でもできるように整えることで、技術は本当の意味で根付いていくと思います」
すでに、プレス・溶接・フチ切りといった複数工程が社内で対応できるようになってきた。
「自分がやった方が早い。でも、それでは会社が育たない。任せて、見守って、待つ。難しさはあるけれど、技術者として“育てる”という仕事の奥深さを、今、実感しています」

会長とは正反対の「穏やかな」技術者
「会長は、まるで戦国大名(笑)。自分とは正反対のタイプです」
酒井氏は、肩の力を抜くようにそう言って微笑んだ。だが会長の背中からは、現場での経験や取引先との信頼の積み上げ方、そして技術へのこだわりをしっかりと学んできた。
「本当に、当時は会長のスピードについていけなくて、何度も自分に自信をな無くしました。でも、逃げずに、ひとつひとつの仕事と向き合っていくうちに、だんだんと“自分のやり方”が見えてきました」

次の世代へ、そして未来へ
「ファクタリウムで出会った先輩たちに、本当に刺激を受けてきました。だから今度は、自分が“誰かの心に火をつける側”になれたらうれしいですね。」
その目は、確かに未来を見据えていた。
燕の技術は、静かだ。多くを語らず、誇らず、ただ求められたものに徹底して応え続けてきた。守秘義務のもと「裏方」に徹するその姿は、派手さとは無縁かもしれない。でも、胸の奥には、激しく燃える炎がある。
一流の仕事には、声に出せないプライドが宿っている。言葉ではなく、仕上がりが語る。姿勢が語る。手の中に宿る技術が、未来を語る。
セキヤは、そんな技術者のDNA受け継ぎながら、次の世代へとバトンを渡そうとしている。受け継ぐだけじゃない。さらに磨き、さらに挑み、さらに人を育てていく。やがて技術者達が「表舞台」への道を切り拓くはずだ

(聞き手:株式会社つばめいと齋藤優介、渡辺丈一郎)