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齋藤優介 齋藤優介
2025.09.30

有限会社 坂井工業

「管理」と「教育」で切り拓く地域産業の未来

代表取締役 坂井真和 氏 インタビュー

新潟県三条市の坂井工業は、プレス加工を強みとし、さらに精密板金技術取り入れを成長してきた企業である。経営を担う若きリーダーの代表取締役坂井真和氏は、会社の強みと課題を冷静に見極めながら、次代にふさわしい組織づくりを進めている。
「技術者・経営者としてはまだ経験や知識が足りないと思っています。でもだからこそ、管理や教育に徹底的に力を注ぐことで、会社全体を底上げできるのではないかと考えているのです」。

「管理」の徹底こそ競争力
坂井工業が重視しているのは、製造業にとって基盤ともいえる「管理」である。金型や図面の管理、帳票類の整理は、現場にとって煩雑で後回しにされがちな作業だ。しかし「忙しいとやらない」という現実を打破すべく、同社はデジタル化と仕組み化に踏み切った。
週に一度の5S活動や、リーダークラスへのノートPC支給によるデータ共有、さらには図面の電子化によって、探す・待つといった無駄を削減。プレス現場でのロスをなくす取り組みは、やがて「坂井工業に任せれば管理がしっかりしている」という顧客からの信頼にもつながった。
「お客様が求めるのは、単に“作れること”ではありません。どれだけ確実に管理されているか、その安心感が品質の裏付けになるのです」。

人材育成と教育の模索
もう一つの柱は「教育」である。近年、現場には若手社員や外国人材が増えた。特にミャンマーからの社員は、母語で会話してしまうことで日本語力が伸び悩むという課題もある。だが一方で、新しい技術に挑戦したいとベンダー加工に関心を示す姿勢も見られる。
「全ての社員が“やりたいこと”を見つけられる環境をつくりたい。休憩時間にほかの機械を眺める社員の姿を見て、もっと成長や興味関心を引き延ばせる場を与えたいと感じました。教育マニュアルの策定も検討していますし、外部の勉強会や展示会を通じて、外から評価を受ける経験を積んでほしいと思っています」。
また、リーダー層には責任と権限を積極的に渡す方針だ。トップダウンではなく、自分たちから意見を出せるボトムアップの組織づくりを目指している。「難しい仕事の見える化や言語化を行うことで属人化を無くし簡単にしていく。楽しさややりがいを感じてもらえることが大切です」と社長は語る。

展示会での発信と外との接点
坂井工業は近年、長崎や名古屋、諏訪など全国各地の展示会に出展し新たな市場の開拓に奔走してきた。だがBtoB企業として、顧客の機密に関わる製品をそのまま展示できない難しさも抱える。
「写真を出せない、事例を話せない。でも展示会に出ることで気づくことは多い。燕三条は有名でも、どこをどう探せばいいのか分からないという声を聞きました。その繋がりを築くと同時に、地場の私たちにとっては当たり前の技術も、外から見れば驚かれるものなのです」。
新潟という土地の強みも再発見している。新潟は、他県に比べ災害リスクが少なく、地政学的にも安定しているという安心感から、新潟の工場に発注する企業が増えているという。実際に県外企業からの新規案件も増加しており、技術と管理はもちろん、「新潟だからこそ」という評価が坂井工業の武器になりつつある。

今後のビジョン
現在の主力取引先は自動車、金融機器、ガス関連メーカーなど。しかし未来を見据え、半導体や防衛関連といった成長分野を視野に入れる。
「展示会に出るのは新たな仕事を取るためです。何度も顔を合わせて初めて次につながる。お客様が求める品質と管理度合を、さらに教育の力で高めていきたいのです」。
その一方で、坂井氏自身は「効率化」と「人の力」のバランスを重視している。帳票作成などはシステム化し、AIなどの最新技術も取り入れることで時間を確保。その分、人が考え、新しい価値を生む余地を広げたいと考えている。
「人がやれる仕事は人がやる。でも効率化できる部分はシステムに任せる。そうして生まれた時間で、挑戦できる環境を社員に提供していきたい」。。

結びに
坂井工業の挑戦は、華やかな技術開発や派手な製品発表とは一線を画している。坂井真和社長が注力するのは、あくまで「管理」と「教育」の地道な磨き上げであり、そこから社員一人ひとりの挑戦心を引き出そうとする姿勢である。その積み重ねは、短期的な成果以上に、企業としての信頼と競争力を確実に高め、やがては地域全体のものづくりを押し上げる力へとつながっていく。こうした坂井社長の歩みは、地域に根ざしながら未来を見据えるものづくり企業の、ひとつの理想的な姿を映し出している。

 

(聞き手:株式会社つばめいと齋藤優介、渡辺丈一郎)